●三つの記録
この連載の最終回です。
第一次、第二次、第三次、それぞれの時代に高学年を担任した時の、4,5月の時期の記録があります。
誤解のないように書いておきますが、どの学級の子どもたちも一人ひとりは素敵な子どもたちでした。ただ、集団の状況として、 "学年始め" はこのような[様相]をしめしていた、ということです。そして、どのクラスも2学期以降、とてもまとまった学級になりました。これは、私の力ではなく、子どもたちの努力や、同僚たちとの共同の結果です。
そして今も、高学年の担任たちは、全てではないにしてもこのような子どもたちの[様相]に、真摯に向き合っていることを知ってほしいのです。
[1980年代の春の記録]
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「男女の仲が悪い」「仕事を極端に嫌がる」「女子のグループ化、それにかかわるいじめ」「男子の暴力的行動、発言」「学校(教師)に対する不信感とあきらめ」。また、男女が極端に対立し、朝会の時など、Vの字に並んでしまい、まともに並べない。給食当番も男女別にやろうとする。与えられる仕事もジャンケンでその都度決めようとする。やりたくてジャンケンをするのではなく、やりたくなくてジャンケンを始める。計画性などはむろんなく、その時の運にまかせて仕事をしようとする。彼らは仕事がないことを「トクをした」ととらえる。女子は、数人の私的グループをあちらこちらに作っており、お互いに横文字の名前で呼びあっている。グループ内は閉鎖的で、交換日記で結びつき、クラスの仲間の悪口でまとまっているケースが多い。また、グループの中身は、相互規制がはたらかず、常に低いほうへ(共に何もやらない)流れる。さらに、グループ同士でメンバーの取り合いがあり、違うグループへ流れた者に対しては、かげぐち、いたずら電話、いやがらせの手紙、無視等が始まる。男子は、幼い遊びに夢中で自己規制がなく、廊下でおいかけっこやプロレスがすぐに始まる。また、弱いものに対しては「バカヤロー」等の言葉を平気であびせて嘲笑する。授業中はウケをねらった「死」を題材にした笑えないジョークを連発する。学校の行事に対しては、極端に嫌がり、不満を持ちながら取り組むものはまだよく、多くはアキラメでしかたなく参加している。教師に対しても不信感を持っており、私に対しても本音でなかなか語ろうとしない。リーダー的な子に対しては「ぶりっ子」と、あからさまに批判し、無視し、公的な仕事に関しては何でも押し付けようとする。これだけ問題がありながら、帰りの会等ではまったく発言がない。また、私から個人の問題、悩み等を班やクラス全体に提起しようとすると、翌日の通信ノートで「プライベートな問題をみんなに知らせるな」と書いてくる。
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[2000年前後の春の記録]
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5年生の後半にはすでに教師の指導が入らず、父母が心配して授業を交代で参観しながら毎日をすごす学級であったらしい。教師や仲間の発言に対してのヤジやチャカシ、あきてきたら平気で立ち歩いてしまう。さらには参観していた父母があまりのひどさに注意したところ、「ウルセー!ババー!ケーレヨ!!」と逆にどなられ、恐ろしくなってしまったと言う。担任は、最後には子どもの安易な要求をなんでも認めるしかなくなり、教室には様々なおもちゃやゲームが持ち込まれていた。教室にはゴミが散らかり、私も朝、教室に入るとすぐにゴミ拾いをする習慣がついてしまった。そして私がゴミを拾っていても、誰も手伝おうとはしなかった。とにかく話を聞かせるのに一苦労であった。ちゃかし、暴力、立ち歩きは男子が中心。一方女子はそれらの喧騒から身を守るようにあちこちに閉鎖的なグループを形成していた。そして、朝自習や休み時間にはトランプに夢中になっていた。放課後てっきり下校したものだと思い教室に入ってみると、女子が数人「こっくりさん」をやっていた。女子のグループの間ではやはり友達関係のトラブルが目立ち、無視や仲間外れの事件が毎日のように起こっていた。
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[2010年以降の春の記録]
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入学式。136名 の6年生の校歌の声はほとんど聞こえない。ニヤニヤして歌うふりをしている子、中にはとなりの子とこそこそ話をしている子もいる。教室では、自分の掃除の分担が終わった子に「他の場所を手伝って!」と言ったら「どうして?」と不思議そうな顔をされた。自分の机の上に他の人のノートが間違えて配られているとそのノートを床に捨ててしまう。板書でうっかり漢字を間違えると「その程度の知識で教師になれるんですか?」と言われた。他の子がほめられると、ヒューヒューとちゃかす。それでい、自分が逆の立場になり、我慢できなくなると突然きれたりする。他の学年の子に「おはよー」と言っても無視して通りすぎる。学校対抗の大会では、自分が参加していない限り無関心。
◎子どもたちの仲間の「見え方」
『自分と比べる対象として「見えて」いる』
・学力や運動/・ユーモアおもしろさ/・身長や体重/・泳げるor泳げない/・絵や工作、習字/・通っている塾や予定進学先/・親の学歴/・車 その他もろもろ
自分と比べる対象としての「仲間」に対して警戒と不信感を持ち、嘲笑できる機会を逃さない。ロッカーの上にあった工作が壊れると「誰かにこわされた」と言い、目立つことを嫌い、目立つ者を極端にからかう。
ちなみに、特に荒れたり,キレたりしている子は、
1.他から下位に見られている層の子。
2.トップ集団からまさに振り落とされそうになっている層の子たち。
そんな子どもたちにとって一番お手軽な「つながり方」は悪口やいじめでつながること。誰かを批判しておけばとりあえず自分は安泰ということ。そしてケータイがあればさらにお手軽。
子どもたちは、もっと真っ当につながりたい!と願っている。そんな子どもたちの苦悩を理解せず…、「思いやりを持ちましょう」と伝えてしまう教師たち。子どもたちは、そんなことはわかっているはず…それができない事情を理解してほしい!!と訴えているのでは?…
今、子どもたちに伝え、一緒に考えていきたいことは、
1.うまくつながれないで悩んでいるのは、あなただけではないということ。
2.仲間と、つながるために必要なことってなんだろう?……
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(完)